ゴミ屋敷という、個人や家族だけでは解決が困難な問題に直面した時、私たちの社会には、手を差し伸べてくれる公的な相談窓口、つまり「行政」という、強力なセーフティネットが存在します。費用がかからず、専門的な知見から、問題解決への道筋を示してくれるこれらの窓口を、積極的に活用しない手はありません。まず、総合的な相談窓口となるのが、「市町村役場」です。多くの自治体では、「市民相談課」や「生活相談課」といった名称の部署が、どこに相談すれば良いか分からない住民の、最初の受け皿となっています。ここで事情を説明すれば、問題の性質に応じて、適切な担当部署に繋いでくれます。ゴミの不法投棄や悪臭といった環境問題が主であれば「環境課(清掃課)」、住人の生活困窮や虐待が疑われる場合は「福祉課」が担当となります。次に、住人が高齢者(一般的に65歳以上)である場合に、中心的な役割を果たすのが「地域包括支援センター」です。ここは、高齢者の介護・福祉・医療に関する、まさに「よろず相談所」です。保健師、社会福祉士、主任ケアマネージャーといった専門職がチームを組み、ゴミ屋敷の背景にある、身体機能の低下や認知症、社会的孤立といった問題に、多角的にアプローチし、必要なサービスに繋げてくれます。また、住人が精神的な問題を抱えているように見える場合は、「保健所」または「精神保健福祉センター」への相談が有効です。精神保健福祉士などの専門家が、本人や家族からの相談に応じ、心のケアや、医療機関への受診勧奨、社会復帰の支援などを行います。これらの公的機関は、直接的にゴミを片付けてくれるわけではありません。しかし、彼らは、ゴミ屋敷という複雑な問題を、法的な観点、福祉的な観点、そして医療的な観点から分析し、解決のために必要な、様々な社会資源(サービスや制度)をコーディネートしてくれる、頼れる「司令塔」なのです。一人で悩まず、まずは、そのドアを叩く勇気を持つことが大切です。