物が捨てられないという個人の特性が、どのようにして部屋を「ゴミ屋敷」へと変貌させていくのか、その進行メカニズムには、心理的な要因が大きく関わっています。最初はごく些細な「もったいない」や「いつか使うかも」といった思いから、一つの物を手放さないことから始まります。しかし、それが積もり積もって物の量が増え始めると、心理的な変化が加速し、問題が深刻化していきます。まず、部屋の物が徐々に増えていく過程で、「片付けきれない」という圧倒感が生まれます。一度に片付けようとすると、その途方もない量に絶望し、行動自体を諦めてしまうのです。この圧倒感は、片付けに対する意欲を著しく低下させ、結果として物が増え続けることを許容してしまいます。次に、「現状維持バイアス」という心理が働きます。人間は、変化を嫌い、現状を維持しようとする傾向があるため、物が散らかった状態が長く続くと、それが「当たり前」の環境だと認識するようになります。たとえそれが不快な環境であっても、それを変えるためのエネルギーを費やすよりも、現状を受け入れる方が楽だと感じてしまうのです。さらに、物が多すぎる環境は、新たな物を置くスペースがなくなるため、それまであった物を「移動させる」だけで、根本的な片付けには繋がりません。この「移動させるだけ」の行動は、片付けたような錯覚を与えつつも、実際には物の総量を減らしておらず、時間の経過とともにさらに部屋の混沌を深めます。また、自己肯定感の低下も、ゴミ屋敷化を加速させる要因です。片付けられない自分を責め続け、自己嫌悪に陥ることで、さらに意欲が失われ、社会との接触を避けるようになります。外部からの視線や評価を恐れ、誰にも部屋を見せたくないという思いから、問題が外部に知られる機会を失い、孤立を深めてしまうのです。このような心理的な悪循環が、物を捨てられない状態から、やがて手のつけられないゴミ屋敷へと導く、悲しいメカニズムを形成しています。
ゴミ屋敷化を促す捨てられない心理